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Duchenne型筋ジストロフィーに伴う側弯症に対する手術




Duchenne型筋ジストロフィーに伴う側弯症に対する手術

 Duchenne型筋ジストロフィーの患者様は、多くの方は10歳前後で歩行不能となり、車椅子中心の生活となります。同時期より側弯症(背骨が曲がる病気)を認めるようになり、その多くは進行性であると言われています。
 側弯症の治療は、装具療法(コルセットなど)などの保存療法では進行を遅らせる効果はあっても、進行を止めることはできません。側弯症の進行に伴い身体機能上、日常生活上、困難を認めることが多くなります。現在のところ、 Duchenne型筋ジストロフィーに伴う側弯症を矯正し、進行を止める効果がある唯一の治療は手術であると考えられています。
 しかし、高度な技術を要する麻酔管理、高い手術技能、適切な全身管理環境を必要とする手術であることから、手術を請け負うことが可能な病院は限られています。  当院は、このDMDに伴う側弯症に対する矯正術を積極的に行っている世界的にも数少ない病院の一つです。  近年、人工呼吸器、心臓治療薬の発達とともに生命予後が改善してきており、脊柱側弯症に対する手術の意義は大きくなってきています。

当院のDuchenne型筋ジストロフィーに伴う側弯症に対する手術実績

 当教室の高相は、 Duchenne型筋ジストロフィーに伴う側弯症の手術を数多く執刀しており、厚生労働省の筋ジストロフィー臨床研究班の委員も務め、世界的にも高く評価されています。2006年に高相が当院に赴任して以降、 Duchenne型筋ジストロフィーに伴う側弯症の手術は年間10例程度行われています。Duchenne型筋ジストロフィーを含めた神経筋原性側弯症の手術件数は、日本で最も多い病院です。
 DMDに伴う側弯症の手術は、心臓や肺などの重大な合併症や感染症など様々な合併症を伴うことが多いと報告されています。そのため、当院では麻酔科など複数の科の協力の下、厳重な全身管理を行うことで命にかかわるような重大な合併症の発生を防ぐことに成功しています。

Duchenne型筋ジストロフィーに伴う側弯症に対する矯正固定術の実際

 全身麻酔で、うつ伏せで手術を行います。
 通常Duchenne型筋ジストロフィーに伴う背骨のカーブは胸椎から腰椎にまたがる大きなカーブであることが多く、約30cmの傷ができます。固定する範囲は第4胸椎から第5腰椎にまで及び、大きな手術です。矯正は、スクリュー、フック、超高分子ポリエチレンテープやロッドといった器具を駆使して行われます。手術時間は4~5時間です。手術準備として、約1か月前から手術に耐えられる体であるかどうかの全身状態のチェックや、他人からの輸血を可能な限り避けるため手術中と手術後の出血を補うための自己血貯血を行っています。
 入院は、手術の約1週間前に入院していただき、必要な検査とリハビリを行います。
 手術後は、リハビリも含めて約3週間で退院される方が多いです。
 退院後の通院は、術後3ヶ月、6か月、1年、その後は1年間隔で来院して経過を診させていただきます。

ナビゲーションシステムを利用した安全な手術

 脊椎の周りには、重要な臓器や神経、大きな血管が走っており、矯正固定に必要なスクリューを挿入する操作は非常に危険です。
 当院では安全にスクリューを挿入するためにナビゲーションシステムを用いています。これは、スクリューを挿入するときに、画面で適切な位置にスクリューが挿入されていることを確認しながら挿入できる高価なシステムです。





Duchenne型筋ジストロフィーに伴う側弯症に対する手術の適応

 世界的には早期の手術が望ましいとする報告もありますが、時期に関する一定の見解は得られていません。年齢的には、呼吸状態や心機能が比較的保たれている12歳から14歳が適当と考えています。側弯の角度としては、当院で行った研究の結果から、合併症のリスクを考慮し、側弯度40°を手術適応の目安にしています。

手術の効果

①側弯の矯正・進行予防

 手術のもっとも確実な効果は、側弯症の矯正と進行予防効果です。約60-70%の矯正効果があります。手術で矯正された傾きは、その後も維持されます。

②座位バランス(座りやすさ)

 側弯症の矯正とともに骨盤の傾きも改善し、座りやすさが改善することも期待できます。骨盤の傾きに伴った臀部の痛み、腰痛も改善が期待できます。

③上肢機能(手の使いやすさ)

 側弯症が進行すると体を片手で支えて座るようになるため、両手を使った動作が制限されます。手術によって体の傾きが改善すると、手の使いやすさも改善します。

④呼吸機能

 Duchenne型筋ジストロフィーでは筋力の低下に伴って、徐々に呼吸機能も低下して行きます。しかし、呼吸機能の悪化は側弯の進行とも関連があるとされており、呼吸機能の悪化をある程度遅らせることができる可能性があります。